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数百年の伝統を受け継ぎ、不思議な、幽玄的な空間を造る能の世界。何故、あの簡素な舞台上で、「小宇宙」を味わう事ができるのでしょう。能には派手なパフォーマンスはありません。面(オモテ)を付ける(カケル)ことで顔の表情の派手さが影を潜め、抑制された喜怒哀楽が役者の演技とあいまってより内面に向かう抑制の美しさを表現しています。役者は、面をかける前、鏡の間で静かに時をまち、面を顔にあて、面に自分を託し、役になるといわれています。 仮面劇である能は全ての役が面をつけるのではありません。シテ(主演にあたる)とツレ(助演にあたる)の一部だけが面をつけ、ワキ(脇役)は面を付けません(直面:ひためん)。ワキは必ず男役の現実の人間で、シテは神、又は精霊、亡霊、怨霊など人間以外の存在であるからだと言われています。女面や男面は後にできました。 シテが面をつけず舞台に出る事もあり、役者は〈直面〉という面をつけたつもりで演じます。また、間狂言の狂言方にも面を用いることがあります。 喜怒哀楽の演技には、笑い声や泣き声はありません。悲しい時には少しうつむきます(クモル)。もっと悲しい場合には手のひらを眼の辺りに近づけます(シオル)。嬉しい時には少し上を向きます(テル)。怒りなど強い意志を表すときは、顔を強く対象物に向けます。これを面(おもて)を切ルといいます。面の角度(ウケと言います)が演技に大きく作用しますから、能面を付ける役者はあらかじめ面の裏に当て物をして、角度を調整します。 |